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BLOGガージェリーブログ

地ビールみたいな味 – 小規模ビールメーカーの苦闘

以前、「日本の大手ビールは個性が乏しい」と書きました。誤解しないでいただきたいのですが、私は大手メーカーのビールが「美味しくない」と言っているのではありません。「個性が乏しい、画一的だ」と言っているだけです。

私は以前、キリンビールの技術系社員でしたので、身にしみて分かっていることがあります。我々ガージェリーを含めた小規模ビールメーカーは、設備投資、技術力の面で、大手メーカー4社には全く歯が立たないのです。その差は歴然、完敗と言えます。

酵母保存タンクビール造りの主役、酵母が休む保存タンク

ガージェリーは地ビールではない・・・と題した先日の記事で、「要するに地ビールですか?・・・と聞かれることが多い」と書きました。実はもう一つ、営業に行って試飲していただいた際に、たまに言われる言葉があります。それは、

「地ビールみたいな味ですね。」

この台詞は、解釈が非常に難しいのです。「大手ビールのスッキリした香味とは異なる味」と指摘されているのであれば、その通りです。ただ、造り手として次のような考えも巡ります。
「地ビール(=小規模醸造所で造られるビール)に共通する香味というのが存在していて、ネガティブな指摘をされているのではないか。」
だとすれば、それは小規模醸造所の生産規模が小さいこと、設備上の制約に起因するのだろう、と考えています。ガージェリーも例外ではありません。

大手ビールと地ビールの生産体制は、ここが違う

大手ビールメーカーと、小規模醸造所(いわゆる地ビールメーカー)の違いは何なのでしょうか。この記事で全てを網羅できるわけではありませんが、一つ例を挙げましょう。
圧倒的に違うのが、何と言っても仕込数です。大手の大規模工場では、1日に10仕込以上が24時間体制で行われています。これに対し、小規模醸造所では1日の仕込数はせいぜい2仕込。それも毎日行われるとは限りません。
もう一つ、1セットだけ持っていればよい仕込設備と異なり、増やせば増やすだけお金がかかるタンク本数も差があります。大手よりも資金事情が厳しい小規模醸造所では、所有するタンク本数もできるだけ少なくしようとします。これは当然のことです。
そして、これらが小規模醸造所におけるビール醸造の制約条件になってきます。

ビール酵母を元気に保つには・・・

ただビールを作るだけなら、意外と簡単なのです。以前から家庭用の手作りキットも販売されていますね(アルコール度数1%以上の飲料を造ることは法律で禁止されていますが)。麦汁を作り、酵母を添加すれば、ビールにはなります。しかし、美味しいビールを造ろうと思えば、そこに様々な技術、工夫が必要になってきます。
特に難しいのは、ビール造りの主役である酵母を元気な状態に保つこと。生き物である酵母たちが気持ちよく仕事をしてくれる状態にあるかどうかが、ビールの出来栄えに大きく関わってきます。

ビール酵母は使い捨てではなく、繰り返し使用することをご存知でしょうか。一回の発酵が終わると発酵タンクから回収し、その酵母を次の仕込に使用するのです。この時、仕込を次々と連続して行えると酵母たちも元気な状態を保ちやすくなり、発酵がうまくいきます。しかし、仕込の間隔が空いて酵母を休ませてしまうと、活性化に時間がかかったり、中途半端な発酵しかできずに香味バランスが崩れたり、ということが起こりえます。仕込回数が限られる小規模醸造所では、この管理が難しいところなのです。

熟成期間が長いほど、コストはかさみます

また、発酵の後、適切かつ充分な熟成期間が確保できているかという点も重要です。熟成期間を確保するためには多くのタンクが必要です。タンクへの設備投資と共に、熟成期間が長くなればそれだけ在庫が膨らむわけですから、メーカーにとってはコストがかさむ一方です。熟成期間を短くすると、熟成が不十分なビールが商品になり、好ましくない香味が残ってしまうことは十分にあり得ます。

仕込回数が少ないこと、タンク本数が限られていること、この二つをいかに克服するか、小規模醸造所でビール造りに携わる誰もが考えているはずの課題だと思います。

弱点を克服せよ! ガージェリーの取り組み

ガージェリーでも、酵母の取扱いは最も気を遣うところです。
一番問題になるのは、やはり仕込回数が少ないこと。商品規模が小さいガージェリーでは、毎日のように仕込を行うことはとても無理。どうしても酵母の使用間隔が空いてしまいます。次の使用まで酵母が待機する酵母保存タンク内のアルコール濃度、圧力等に気を遣いつつ、酵母が元気な状態を保つような工夫が欠かせないのです。
一方、熟成期間については自信があります。製造委託先のエチゴビール社の協力もあり、「長期低温熟成」がガージェリーの大きな特徴になっています。大手にも負けない、他の追随を許さないプレミアムだと自負しています。

大手ではできないことを追求する

大手メーカーと小規模醸造所の間には、何だかんだ言っても大きな技術レベルの差、力の差があります。もちろん、小規模醸造所の間にも技術レベルのギャップは存在します。そうは言っても、その差を悲観していても仕方がありません。小規模醸造所には、大手には真似できないこと、大手では造りたくても造れないビールを世に問うていく自由度があります。日本のビール文化をより豊かなものにしていくため、やるべきことはまだまだ多いのです。

「地ビールみたいな味ですね」というコメント、それが出なくなる日を目指して日々のビール造りに取り組んでいきたい・・・そんなことを考えさせられるコメントです。

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