以下に載せた様々なお酒の表示。上の2つはすぐに分かりますね。それでは、下の2つはいったい何でしょう?
答えは・・・いわゆる「第3のビール」と呼ばれるビール風酒類の表示です。こんな訳の分からない表示のお酒が登場してきた背景には、大手ビールメーカーと国税庁の壮絶かつ滑稽なバトルがあるのです。
そのバトルのきっかけはこちらで >> 「酒税法との闘い その1 – 歪んだ酒税法」
ところで、これらの写真は実際の商品を撮ったものなのですが、それぞれの銘柄が分かりますか? これはかなりの難問かな。答えはこの記事の最後で。
発泡酒の登場で税収激減 ~ 国税庁の対応
1994年、最初の本格的な発泡酒が発売されました。前の記事で書いたように、350ml缶でのビールとの酒税差は24円。価格に敏感になっていた消費者に圧倒的に支持され、アッという間にお酒売り場の主役の座を奪ったのです。さて、そうなると何が起こったか。そう、酒税としての国の税収が激減したのです。困った国は何をしたか、皆さんご存知の通り、発泡酒の酒税を上げてきました。
1996年10月、当時の発泡酒の主流だった「麦芽使用比率50%以上67%未満の区分」の酒税をビールと同じにしたのです。何という姑息な手段でしょう。
発泡酒の酒税が上がった ~ ビールメーカーの反撃
と言っても、これで黙っているようなビールメーカーではありません。今度は、酒税が最も安い「麦芽使用比率25%未満の区分」の発泡酒を開発し、発売しました。この区分の発泡酒の当時の酒税は350ml缶で37円、ビールとの酒税差は41円とさらに大きくなりました。
再び発泡酒増税 ~ 「第3のビール」の誕生
書いていても、ほとほと嫌になってきますが、2003年4月の税制改正で再び発泡酒が増税されました。その結果、ビールメーカー各社はついに発泡酒に見切りをつけ、新たな商品、すなわち「発泡酒に区分されないビール風酒類」の開発を始めたのです。それが「第3のビール」です。
「第3のビール」は、使用する原料、製造方法が多岐に渡りますが、酒税法上は以下の2種類に整理されて現在に至っています。これが冒頭の各表示でもあります。
- 「その他の醸造酒(発泡性)」: 原料に麦芽を使用しないもの
- 「リキュール(発泡性)」: 発泡酒にスピリッツ(大麦または小麦を原料の一部としたもの)を加えたもの
ビール 77円 vs 第3のビール 28円 その差 2.75倍!
現行の酒税は2006年5月に改正された酒税法に基づきます。そこで定められた酒税は350ml缶換算で以下の通りです。(小数点以下四捨五入)
- ビール: 77円
- 発泡酒(麦芽比率25%未満): 47円
- その他の発泡性酒類(いわゆる「第3のビール」): 28円
「ビール」と「第3のビール」の酒税差は49円。たかだか200円程度の商品の税金がこれだけ違うのです。飲まれる目的も、消費者の認識もほとんど変わらないものの差としては明らかに異常だと思いますが、いかがでしょうか。
第3のビールは安物ではない ~ 価格差は酒税分だけ
最後に、これだけはお伝えしたいと思います。「ビール」と「第3のビール」の価格差は、そのほとんどが酒税の違いによるものです。決して「第3のビール」の原料が安いとか、端折った製造方法を取っているということではありません。むしろ、「第3のビール」の方が高い技術力が必要でしょうし、原料も高価格のものが多いのです。
ビール文化が高まるような税制を
歪んだ税制に振り回され、ビールが文化として高まらない。忸怩たる思いをしている醸造技術者は多いと思います。
「第3のビール」の増税も毎年のように話題になっています。国には、場当たり的な対症療法ではなく、根本的にお酒の税制を考え直すような対応を望みたいものです。その結果として、ビール文化が健全な形で高まっていくような、そんな将来を期待してやみません。
冒頭の問題の答えです。上から順番に、
- キリン「一番搾り」
- アサヒ「スタイルフリー」
- サントリー「ジョッキ生」
- サッポロ「麦とホップ」 でした。
分かりましたか。