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酵母 – ビール醸造の神秘を司る

昨年来、「プレミアムビールができるまで」と題して、ビールの醸造工程をブログで紹介しています。

初回「主役のモルトはフランス産」でクイズを出しましたが、ビール造りに欠かせない4つの原材料を覚えているでしょうか。そう、

  • モルト(麦芽)
  • ホップ
  • 酵母

ですね。どれも大切な役者たちですが、ビール会社ごとに差が出やすいものがあります。アルコール発酵の主役「酵母」です。

顕微鏡で覗いた酵母の姿です。ビール酵母は「Saccharomyces cerevisiae」(サッカロミセス・セルビシエ)に分類される単細胞の微生物です。酵母一匹は、たった一つの細胞からできています。大きさはわずか数ミクロン(μm)。ちょうど、二つの細胞がくっついてヒョウタン状になっている酵母がありますね。今まさに酵母が増殖(分裂=出芽)しようとしている瞬間です。

酵母も下面発酵と上面発酵に分けられます

ご存じの通り、ビールには大きく分けて二つのタイプがあります。下面発酵ビール(ラガー)と上面発酵ビール(エール)です。酵母もそれに対応して下面発酵酵母と上面発酵酵母に分けられますが、これは生物学的な分類ではなく、ビール醸造上の便宜的な区分です。ざっくりと説明します。

  • 下面発酵酵母
    発酵の進行と共に酵母が沈みます。国内で多く飲まれているラガー(ピルスナー)タイプのビールはこのタイプの酵母を用いて作られます。発酵温度は低めで、5-15℃くらいの温度で発酵を進めます。
  • 上面発酵酵母
    発酵の進行と共に酵母が浮き気味になり、このタイプの酵母を用いて作られるビールが広義のエールビールです。発酵温度は高めで、15-25℃くらいの温度で発酵を進めます。下面発酵酵母に比べて華やかでフルーティーな香りが付き易いのが特徴です。

ただ、下面、上面と言っても明確なものではありません。酵母によって下面でも浮き気味なもの、上面でも沈みがちなもの、いろいろとあります。ガージェリー用に使っている酵母は上面発酵酵母に分類されるものですが、どちらかと言うと発酵後半では沈みやすく、発酵終了後の酵母はタンクの底からしっかりと回収することができます。

酵母はビール醸造の神秘を司る

さて、冒頭で「酵母はビール会社ごとに差が出やすい」と書きました。ビールの香味を決める上で酵母の果たす役割はとりわけ重要です。

酵母は微生物、生き物です。人間や動物と同じように、一匹ずつ性格差があるのです。どの一匹を選んで培養するか…それが重要です。その他の原料(モルト、ホップ、水)が全く同じでも、酵母が変われば出来上がるビールの香味は変わります。これこそがビール醸造の神秘。優秀な酵母を選別してコレクションすることがどれほど大事なことか、ビール会社にとって酵母のコレクションは門外不出の最重要機密なのです。

試験管の中でスタンバイ

顕微鏡写真で見た通り、酵母一匹はたったひとつの細胞です。これぞという酵母一匹を選別したら、まずは試験官の中の培地上で増殖させて保管します。

ビール醸造に使う場合は、試験管 → フラスコ → より大きな培養容器…といった順番で小規模な発酵を繰り返しながら徐々にその量を増やしていきます。そして最後は、下の写真にある酵母培養タンクで1仕込分の酵母が整えられ、仕込が終わった麦汁に添加されるのです。

麦汁に添加する前の酵母の状態は、こんな具合です。

酵母は繰り返し使います

ビール酵母は使い捨てではありません。発酵が終了すると、ビールを発酵タンクから熟成タンクへ移す前に酵母だけを回収して次回以降の仕込に再使用します。繰り返し使用できる回数はビールのタイプ、酵母の種類によって異なりますが、ガージェリーの場合10回程度は繰り返し使用しています。下の写真が発酵タンクから回収した酵母を一時保存するタンクです。

さて、いかがでしたか。ビール醸造に使う酵母がどんなものか、少しはイメージしていただけたでしょうか。たった数ミクロンの酵母がビールの香味を左右する鍵を握っているのです。実に神秘的な世界ではありませんか。

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