プレミアムビールができるまでの第4回。「読む工場見学会」は仕込工程に入ります。
前回紹介したモルトミルの工程で、仕込の原料となる粉砕モルトが出来上がりました。いよいよこれが仕込装置に投入されます。簡単に、これまでの記事を振り返りましょう。
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ビール造りは体力勝負、腰がやられます!
仕込室の全景をご覧ください。手前に二つ、奥に二つ見える釜のようなものは全て仕込用の設備です。これら四つの設備は、形は似ていますが構造・用途とも全く異なります。仕込工程は、左手前にあるマッシュケトルを皮切りに、四つの設備を反時計回りに経由しながら進みます。
化学の時間です – アルコールはどうしてできる?
よくよく考えてみれば、アルコール発酵とはなんとも不思議な現象です。穀物であるモルトからどうしてアルコール(ビール)ができるのか。ズバリ一行で説明してみましょう。
C6H12O6 → 2C2H5OH + 2CO2
う~ん…寝息が聞こえてきそう(笑)。
もっと簡単に説明しましょう。発酵とは、糖がアルコールと炭酸ガスに分解される現象のことです。そして、この役割を担うのが、ご存知「酵母」です。マンガ「もやしもん」で言うところの「醸すぞ!」ですね。酵母にもいろいろと種類があるのですが、それはまたのお話。
さて、アルコールを得るには糖が必要ですが、モルトの中身はほとんど澱粉(デンプン)、糖はありません。酵母は分子構造が大きな澱粉を分解することができませんから、そのままでは発酵が進みません。そこで、モルトの中の澱粉を糖に変えてやる必要があるのです。
澱粉を酵母が分解可能な小さな糖に変える(澱粉を切り刻んで糖にする)工程を「糖化」と言います。糖化は、モルト自身が持つ酵素の働きによって、上の写真の左手前の設備「マッシュケトル」内で進みます。これが仕込工程の第一段階です。
原料によって仕込は変わる
話が飛びますが、同じ酒でもワインや日本酒の仕込方法はビールとは全く異なります。その理由は原料の違いにあります。
ワインの原料はブドウです。ブドウの果実に含まれるのは当然、糖ですね。だから糖化する必要がないのです。酒造りには何とも都合の良い原料ですね。
一方、日本酒の原料は米です。米の主成分はモルトと同様、澱粉ですから、これを糖に変えなければなりません。ところが米には澱粉を分解する酵素がありません。そこで、酵素の供給源として麹の手助けが必要となるのです。
原料の違いによる仕込方法の違い、分かりましたか?
話はビールの仕込に戻ります。粉砕したモルトを湯と共にマッシュケトルの中に投入します。この時の湯の温度はビールの種類によって変わります。ガージェリーの場合は50℃に設定します。マッシュケトルの底では、投入したモルトが固まって団子状態にならないように、2枚羽根の大きな撹拌機が回転しています。所定量の投入が終わると下の写真のような状態になります。モルトがお湯に分散したドロドロの状態を醪(もろみ=マッシュ)と呼び、この状態で糖化が進みます。
温度コントロールがビアスタイルを決める
糖化の進み具合は温度によってコントロールします。モルトから溶け出す酵素(例えばペプチターゼやアミラーゼ)は、その種類によって活性が高まる温度が異なります。50℃からスタートし、温度を一定に保ったり、徐々に上げたりしながら、目的とする酵素を働かせたり、その働きを止めたりするのです。そうすることで、モルトの澱粉を効率よく糖に変えていきます。
ザックリ言います。この工程で糖化をより進める(より多くの澱粉を糖に変える)と発酵度の高いドライ系のビールに向かいます。逆に糖化を抑えると、発酵されない澱粉や大きな構造の糖が残ることになり、結果として発酵度が低く味わい深いビールに向かいます。ガージェリーはどちらかと言うと後者ですね。
もうお分かりですね。この糖化工程はビールのタイプ、ビアスタイルを決めるとても重要な工程なのです。
さて、全ての酵素の働きが抑えられる78℃まで温度が上がると糖化工程は終了です。次は麦汁濾過工程へと進みます。