シリーズ「プレミアムビールの真実」の第1回。
原料価格の観点から、麦芽100%(オールモルト)ビールのプレミアムについて考えます。
予告編でも書きましたが、プレミアムビールに対する勘違いでおそらく最も多いのが、「高価な原料である麦芽を100%使っているからプレミアム」というもの。実は、
麦芽はビールの原料の中で一番安いのです。
日本のビールで主に使われている原料は、役割が異なるホップを別にすると以下の通り。
- 麦芽(ほとんどは輸入品)
- 米
- コーングリッツ(→コーンと表示)
- コーンスターチ(→スターチと表示)
これらを全て使用したビールの表示は写真右側。一方、米やコーンを使わないものが麦芽100%ビール。表示は写真左側になります。
さて、これら原料の価格をご存知ですか? いずれも農産物、及びその加工品ですから作況等による変動はありますが、概ね麦芽(輸入品)が一番安いことが多いのです。意外に思われるかもしれませんが、麦芽100%ビールの原料コストが高いということはありません。
財務省貿易統計で輸入麦芽のCIF価格を見ることができます。CIF価格というのは、輸入のための船賃、保険料等を含んだ日本の港に着いた際の価格です。作況や経済情勢による一時的な価格の上昇はありますが、概ね50円/kg前後で推移していることが分かると思います。
これに対して、ほとんど国産品が使われる米はどうでしょうか。もちろんビールの醸造には食用米を使うわけではありませんが、それにしても50円/kgと比べればどちらが高いか、何となく想像つきますよね。
麦芽と同じ資料から、とうもろこしのCIF価格も見ることができます。とうもろこしは20円/kg前後ですが、この後国内でグリッツやスターチに加工されますので価格は高くなります。
麦芽100%、なんとなくプレミアム?
プレミアムビールでは、商品に高級感を与えるために、「こだわりの原料」、「芳しい香味」、「上質なデザイン」といった美辞麗句が並びます。これらの多くは抽象的な表現ですが、唯一具体的な「麦芽100%」が高級“感”の重要な要素になっているのは間違いないようです。その証拠に、麦芽100%のビールは、そのことをことさら大きく書きたがります。実際のコストが高いわけではないのに・・・。
そもそも、ビールの原料費の比率は低いのです
麦芽100%のプレミアムビールは原料費が高いから高級なんだ・・・というのは間違った認識です。
元々ビールのコストに占める原料費の割合はたかが知れています。普通のピルスナービールの場合、麦芽の使用量は350ml缶ビール1本あたり50g程度(ビール酒造組合Q&A参照)です。ということは、麦芽の価格を50円/kgとして2.5円/本。たとえ高級感を求めて濃いビールを造るために麦芽を2倍(!)使用してもコストは2.5円上がるだけ。20円も30円も違うことはあり得ません。ましてや、同じ濃さのビールで他の原料を麦芽に切り替えるだけなら、そのコストはほとんど変わりません。
副材料の米やコーン ~ 決して混ぜ物、安物じゃない
麦芽の入手が困難だった戦前戦後の一時期、代替原料として麦芽以外のでんぷん源が使われていたことの名残なのか、日本では米やコーンなどの副原料を「混ぜ物」的にとらえ、安物とみなす傾向があります。その反動として、「麦芽100%が高級」というおかしなイメージにつながっているのだと思います。
その「イメージ」をプレミアム(=付加価値)と捉え、高い価格に満足するならば、それはそれで良いと思います。しかし造り手からすると、それはちょっと違うかな・・・と思ってしまうのです。
さて、今回はここまで。
次回はやや横道にそれますが、米やコーン(副原料)の役割、麦芽100%にする意味について解説したいと思います。