本ブログでこれまでも解説してきましたが、樽詰ビールは“炭酸ガスで押し出す”ことによって注ぎ出されます。“炭酸ガスで押し出す”…と一言で言いますが、実はこれがクセモノ。正しく理解していないと正常なビールの注ぎ出しができません。
実は、樽詰ビールのお取扱店からの相談で一番多いのが、「泡が多い」、「泡が少ない」等、泡の出方に関する問題です。これらの問題、ビールそのものや樽の不良に原因があるケースは極めて少なく、そのほとんどは、お店での炭酸ガスボンベの圧力設定に起因するのです。
まさに、「炭酸ガスを制する者、ビールの泡を制す」。
今回は、ロスを減らし、きれいな泡を乗せたビールを注ぐために必須となる化学の勉強をしましょう。
ビールの炭酸ガス含量は温度と圧力で決まる
上のグラフを見てください。これはビールの炭酸ガス含量の「平衡圧」を示したグラフです。ある温度と圧力でどれだけの炭酸ガスがビールに溶け込むか…ということを表しています。
「炭酸ガスは、温度が低いほど、圧力が高いほど、ビールにより多く溶け込みます。」
樽ガージェリーの炭酸ガス含量は、通常の大手ビールよりちょっと低めの0.48%くらい。グラフの太い黒ラインのところです。1リットルのビールに4.8gの炭酸ガスが溶け込んでいることになります。
この含量を保つために必要な温度と圧力の関係がグラフから読み取れます。ビール温度が5℃ならば、緑ラインと黒ラインの交点から下にたどって必要な圧力は0.8kg/cm²(以下cm²は省略します)、同様に15℃ならば1.5kg、25℃ならば2.4kgとなります。この値からずれることで、ビール中の炭酸ガスが過多になったり過少になったりするわけです。まずはこれをしっかりと頭に入れておいてください。
圧力は減圧弁でコントロール
ビールにかける圧力は減圧弁(下の写真)でコントロールします。減圧弁は炭酸ガスボンベに取り付けられており、圧力を調整できるダイヤルが付いています。本体の赤い矢印に、ビールにかけたい圧力の数字を合わせます。下の写真は2.0kgの圧力がビールにかかっている状態です。
ビールの温度はその時々で決まっていますから、温度に合わせて最適な圧力になるようダイヤルを設定します。平衡圧のグラフを参考に、もしビールの温度が冷蔵庫出したての5℃ならば0.8kgに、冬季に常温で15℃ならば1.5kgに、夏季に常温で25℃ならば2.4kgに合わせるわけです。
泡だらけの原因は圧力の設定ミス
圧力の設定が最適値よりも高いとどうなるのでしょうか。この場合、ビールに必要以上の炭酸ガスが溶け込むわけですから、注ぎ出すビールは徐々に泡が立ちやすくなり、最後には泡だらけになります。圧力を高くした方が注ぎ出しが速くなるからと言って、決して圧力設定を高くし過ぎないでください。
一方、圧力が最適値よりも低いと、ビールの中に所定の炭酸ガスが溶け込んでいることができなくなります。短期的には注ぎ出しの際に炭酸ガスが一気に分離して泡だらけになります。そして時間が経つと樽内のビールはいわゆる気抜けビールになって泡も立たなくなります。これは、夏季の急激な気温上昇に伴って樽の温度が上がったような場合に起こります。ビールの温度が上がることで圧力の最適値が上がり、減圧弁の圧力設定はいじってなくても最適値からのずれが生じてしまうわけです。
樽が常温ならば「2.0」、冷蔵ならば「1.0」
炭酸ガス圧力設定はきめ細かく調整するに越したことはありません。しかし実際には、こまめな調整はなかなかできないもの。ということで、ガージェリーの場合、樽を冷蔵保管している場合は1.0kg、樽が常温の場合は2.0kg…という目安を案内しています。これで大きなトラブルはないはずです。あとは、これを基準に状況に応じて調整していけばよいでしょう。
さて、いかがでしたか。何とも面倒だなぁ…と感じた方も多かったと思います。でも、調理の際の火加減の調節と同じようなもの…と考えていただいたらどうでしょうか。旨いビールを飲もうと思ったら、それなりの細かい気遣いがどうしても必要になるということなのです。