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ホップは箱入り娘、ホップ畑は男子禁制

「プレミアムビールができるまで」の第2回。前回のモルトの話のおさらいからです。
ビール造りに欠かせない4つの原材料、もうお分かりですね!?

正解はモルト(麦芽)、ホップ、酵母、水。今回は、ビールに苦味を与え、香りで彩る「ホップ」の話をしましょう。

ビールの歴史は非常に古く、メソポタミア文明、エジプト文明の時代から飲まれていました。ただし、私達が日頃飲んでるビールとは似て非なるもの。古代のビールにはホップを入れる習慣がなかったのです。

ビールの歴史にホップが登場するのは中世以降。冷蔵設備がなかった時代、ビールを美味しく安全に飲むために様々な創意工夫をしていました。ホップもその一つ。雑菌の繁殖を抑え、ビールに爽やかな苦味を加えるホップが発見され、一気に広まったというわけです。

ホップ畑は男子禁制!?

ホップという植物について少し解説します。ホップは麻科に属する、蔓性の多年生植物。そして雌雄異株です。雌株と雄株が別々に存在します。

実は、ビール用のホップ畑にあるのは全て雌株。女の園です。畑はもちろん、その周囲の土地も含めて、たった一つの雄株も許されません。万が一見つかった日には、文字通り根こそぎ取り除かれてしまいます。なぜなら、

ビールの原料として使うホップは、雌株に発達する未授精の毬花(まりばな)です。あの芳しい香りと苦味を効果的に取り出すには、ホップは未授精であることが重要なのです。雄株の花粉をばらまかれては困ります。残念なことに、雄株は完全に邪魔者扱い。まるで利用価値がありません。ホップの花言葉は「不公平」。笑

未授精の毬花が下の写真。松ぼっくりのような形をしていますね。

ホップの魂「ルプリン」

毬花を二つに割ると、軸の周りに黄金色の小さな粒が付着しています。これこそがビールに命を吹き込む「ルプリン」です。ルプリンの中に、ビール醸造に欠かせない苦味の元になる成分、ホップ独特の香り成分等が含まれています。これらは樹脂成分で、触るとベトベトします。とても良い香りがするのですが、手を洗っても簡単には落ちません。

ペレット加工して使います

毬花は、そのままの状態では保存性が悪く、醸造現場でも扱いにくいため、通常はこれをペレット状に加工して保存、使用します。毬花全体を粉砕し、一番上の写真にあるようなペレットに成形するのです。これを不活性ガスと共に密封保存すれば、数年間は問題なく保存できますし、醸造現場での使い勝手も格段に向上します。ガージェリーの醸造には、このペレット加工されたホップを使用しています。
また、ビール醸造に特に有用なのはルプリンの成分だけであるため、その樹脂成分のみを抽出して液体状に加工することもあります。これはホップエキスと呼ばれます。ガージェリーでは使っていませんが、世界のビール会社では普通に使われている原料形態です。

ガージェリーのホップはドイツ、チェコ産

ホップの産地は広く世界に分布していますが、その中でも主要な産地となると、ドイツ、チェコ、英国を中心とするヨーロッパと米国になります。ヨーロッパ産ホップと米国産ホップ、どちらを使うかは醸造技術者の好みが分かれますが、私は穏やかなヨーロッパ産が好み。最近流行りのIPA(インディアン・ペールエール)に良く使われる米国産のカスケード種のような派手な香りはちょっと苦手です。というわけで、ガージェリーにはドイツ、チェコ産の以下の3品種のホップを使っています。

  • ドイツ・ハラタウ地方産の「ヘルスブルッカー」と「ノーザンブルワー」
  • チェコ・ザーツ地方産の「ザーツ」

これらの内、ヘルスブルッカーとザーツは香り成分重視のアロマホップと呼ばれる品種、ノーザンブルワーは苦味成分重視のビターホップと呼ばれる品種です。これらを適宜組み合わせて、あのガージェリーの香味を実現しているのです。

国産ホップは風前の灯

ところで、ホップにも数量は少ないですが国内産があります。岩手県や秋田県、北海道等で大手ビールメーカーとの契約栽培で生産されています。しかし、例によって高価格であるのと同時に、ビール以外にはほとんど用途がないため、極めて限られた生産になっています。近年は数量も減ってきており、将来は全てが輸入ホップになってしまう可能性が大きいと思います。

さて、今回はここまで。次回からいよいよ仕込工程に入っていきます。

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