「プレミアムビールができるまで」の第3回です。いよいよビールの製造工程へと進みます。
…と言っても、今回はモルト(麦芽)を砕くだけの話。ですが、それなりに奥は深いのです。モルトを砕く装置(モルトミル)について詳しく解説しましょう。
近頃は「工場萌え」という言葉があり、メカメカしい工場の外観に魅力を感じる愛好家が増えているそうですが、生産現場に長年携わってきた私の立場で言わせれば、まだまだ甘い。もう一歩踏み込み、工場内部の設備一つ一つの細部まで愛でることが出来なければ!
ビール造りの第一歩、モルトの粉砕
ビール醸造は、モルトを計量、粉砕するところから始まります。ミルというのは粉砕機のこと。身近なところでは、ちょっと形状は異なりますがコーヒーミルを思い浮かべてください。
下の写真がガージェリーの醸造に使われているエチゴビール社のモルトミルです。
一般的なモルトミルはローラー式です。目玉のように4つ見えるのが粉砕ローラーの軸の端面です。4本のローラーが2本一組で上下に配置されているのが分かります。上段でまず粗挽きして、下段でさらに細かく、モルトは2度に亘って粉砕されるわけです。写真右側のレバーで粒度分布(粉砕後のモルトの大きさ)を決めるローラー間隙を調節します。
サイロに貯蔵されているモルトは、計量を終えてからこのモルトミルに送られてきます。そして、砕かれたモルトが次の仕込設備へと運ばれます。この工程はほとんど機械がやってくれますが、スタウトに使うチョコレートモルトなど、使用量が少ないモルトは手作業で計量機へ投入しなければならないので大変。このあたりが規模が小さい工場の宿命です。
>> 主役のモルトはフランス産
大手のビール工場ではさらに大型の6本ローラーのタイプが多く使われています。3種類のローラー間隙が設定できることで、粉砕モルトの粒度分布の調整がより精密にできるようになっているのです。
小さなブルワリーならではの事情、ビール造りは体力勝負
一方、より小規模なビール工場用にはローラーが2本だけのシンプルなモルトミルもあります。写真は壜商品のGARGERY23を仕込んでいる醸造設備で使用しているミル。とてもシンプルな形状ですね。
こちらのミルは完全な手作業、モルトは全て人の手で投入します。モルト袋は一つにつき25キロ。私もやったことがありますが、日頃から鍛えていなければ確実に腰がやられます。大変な重労働なのです!
ミルを通ったモルトは、ご覧のとおり粉々です
粉砕されたモルトを見てみましょう。
穀皮は比較的粗く粉砕され、原型に近い形状を留めているものもあります。白く見えるのが穀粒内部の成分です。粉砕することで、穀粒内部のでんぷんやたんぱく質の成分が湯に溶け易くなり、次の糖化工程でより効果的に活用できるようになります。また穀皮の部分は、さらにその後の麦汁濾過の工程で重要な役割を果たします。
ここまでくれば仕込の準備は完了。次回は、この粉砕モルトがいよいよマッシュケトルに投入され、糖化工程へと進みます。