秋の夜長、美味しいお酒の話をしませんか。これから数回に分けて、ガージェリーができあがるまでの工程を紹介しようと思います。言ってみれば「読む工場見学会」ですね。
記事を読んでさらに気になったら、来月12月8日(土)の工場見学会にお越しください。「新潟は遠いな」と感じている方は、なんと勿体ない。騙されたと思って一度遊びにいらしてください。私も当日は都内からの往復ですし(笑)。幸い、次回分はまだ参加枠に余裕があります(11月13日現在)。
突然ですがクイズです。ビール造りに欠かせない4つの原材料とは何でしょうか?
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正解は、モルト(麦芽)、ホップ、酵母、そしてもちろん水。
今回の話題はビールの主役「モルト」です。
モルト(麦芽)って何だ
ところで、モルトが具体的にどのようなものかご存知でしょうか。
麦の粒を水に漬ける→ちょっとだけ(芽が粒内に留まる程度)発芽させる→乾燥して発芽を止める→麦粒から出ている根を除去する→出来上がり、これがモルト(麦芽)です。麦芽と言っても、麦の「芽」ではありません。
モルトはウイスキー造りにも使われます。乾燥する際に使用する燃料により、味わいに個性を出すことがありますね。ラフロイグなどアイラ島のシングルモルトが代表的です。
工場見学会ではモルトを食べてもらうこともできます。モルトになる前の原料麦は硬いのですが、モルトになると少し柔らかくなります。そして優しくほのかな麦の甘みが口の中に広がります。
モルトは輸入品が中心
大手も含めたビールメーカーが使うモルトは、そのほとんどを海外からの輸入に頼っています。大手メーカーが国内産ビール大麦を使って自社(系列)の製麦工場で加工している国産モルトもあることはあるのですが、その数量は限られています。その一番の理由は「高価格」で、品質も一般的には輸入モルトの品質の方が優れています。もちろん、モルトの品質は国や地域だけで区分できるほど単純ではありませんが。
それでもたまに期間限定商品として国産のモルトやホップの使用を前面に出した商品が発売されることもありますね。鬼の首を取ったかのように「ニッポン」を強調します。「国産」というブランド力は抜群ですが、この手の商品の背景には、大手メーカーはいくつかの理由により一定数量の国内産ビール大麦を買わざるをえないという事情もあります。国産原料をまとめて使ってしまうため…という見方も。。。
ガージェリーのモルトはフランス産
さて、品質の良いモルトをどこから調達するか。極小企業であるガージェリーにとって、これは大きな問題です。ビール大国のドイツ? 英国? いえいえ、農業大国フランスをお忘れなく。
国内のビール産業が盛んなビール国よりも、自国内にビールメーカーが少ないフランスのモルトメーカーの方が目が外に向いています。極東の小国の、そのまた極小ビールメーカーが品質の良いモルトを購入しようと思ったら、そうした国から買った方がよさそうだと思いませんか。
また、かつて私が大手ビールメーカーに在籍していた当時、モルトの調達担当者としてスフレ社の工場を見に行ったこともあるのです。現場を知っているという安心感もあり、ガージェリーを始めた当初から同社のモルトを選びました。
モルトの調達一つにしても、ちょっとした工夫ときちんとした信頼関係を大事にしています。
主力モルトはサイロの中に
ガージェリーの製造委託先であるエチゴビール社に見学に来ていただくと、3本そびえ立つサイロ(この記事の冒頭の写真)が目に入ります。ガージェリーを醸造する際に最も使用量が多いペールエールモルトはこのサイロの中に保管されています。サイロ1本にはモルトが約60トン入ります。一方、使用量が少ない特殊モルト4種類は、25kg入りの袋で保管されています。
この後の工程で、サイロ内のモルトは自動搬送で粉砕機に導入されますが、袋入りのモルトの導入は手作業なので、かなりの重労働。このあたりが小規模工場の宿命なのです。
5種類のモルトを使い分け
ガージェリーの醸造では5種類のモルトを使い分けます。
- ペールエールモルト(写真左上)
- ミュンヘンモルト
- ウィート(小麦)モルト(写真右上)
- クリスタルモルト(写真左下)
- チョコレートモルト(写真右下)
5種類の内、ウィートモルトだけは小麦から作られ、残りの4種類は大麦から作られるモルトです。写真でも穀粒の形が違うのが分かりますね。ミュンヘンモルトは外観上はペールエールモルトと区別がつきません。タンパク質含量や色の濃さが微妙に異なるのです。また、左下のクリスタルモルトもペールエールモルトとの違いが分かりにくいですが、実は穀粒の内部がカラメル化しており、色が全く異なります。
下の写真の左側から、ペールエール、クリスタル、チョコレートです。
もうお分かりだと思いますが、クリスタルモルトやチョコレートモルトを使うとビールが黒くなるのです。それが黒ビールですね。
>> 黒ビールの色はどうして「黒い」?
さて、これらをどのように配合するかは企業秘密で門外不出(笑)です。でもこれだけはお教えします。最も使用量が多いのは前述の通りペールエールモルトです。そしてガージェリー・エステラやガージェリー23・ウィートには、濃色モルトであるクリスタルモルトやチョコレートモルトは使いません。まあ、あたりまえですね。
今回はここまで。次回はモルトと並ぶビールの主要原料であるホップを紹介します。