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ボトルコンディションと‟賞味期限”

ガージェリー醸造責任者の佐々木より、瓶商品の「瓶内熟成」と「賞味期限」に関する考え方を、少し詳しくお話ししたいと思います。

ガージェリーの瓶商品は「瓶内熟成」を謳い、賞味期限は3年を表示しています。

賞味期限とは「美味しく飲める期間の目安」として表示されるものですが、この「美味しく」というのが曲者です。美味しさの基準は人それぞれですから、製造日から3年経ったガージェリーを飲んだ場合、ある人は美味しいと感じても、別の人は既に美味しくなくなっていると感じるかもしれません。ガージェリーがどのように考えて賞味期限を設定し、その間に起こる変化をどのように捉えているか、改めてまとめてみました。

ガージェリーのこだわりのポイントは、いかにコンディションの良いビールをお客様にお届けするか、という点です。そのために、樽商品は毎日ご注文いただいた分だけを樽詰めして翌日にお店にお届け、瓶商品は瓶内熟成という考え方で瓶内の酸素を極力除去して酸化劣化を防ぐ、という仕掛けにしています。

樽、瓶それぞれ「コンディションの良いビール」というキーワードは同じですが、アプローチが異なるのです。(参照記事:ひとつの信条、ふたつの“かたち”

今回のテーマは瓶商品の賞味期限なので、ここからは瓶商品に絞って話を進めます。

瓶内での酵母の役割

ガージェリー(瓶)は、主発酵が終わったタンク内のビールを濾過せず、そのままの状態で瓶詰めします。当然ながら、この時点では相当数の酵母が生きた状態で瓶内に入ります。瓶詰の際、酵母の有無に関わらず、どうしても酸素(空気)が瓶内に混入してしまい、この酸素が、その後のビールの品質劣化(=酸化)を招きます。ただし、生きた酵母はその呼吸によって酸素を消費してくれますので、瓶内の酸素は減少します。つまり、品質劣化の大きな要因である酸素を酵母の働きによって除去しているわけです。

酸素が無くなると酵母はどうするのでしょうか。その時点でビール中に糖が残っていれば、酵母はその糖を分解します。これが要するに発酵ですが、ガージェリーの場合、瓶詰した時点で酵母が分解できる糖はほとんど残っていませんので、瓶内での顕著な発酵は起こらないと考えています。従って、瓶内「発酵」ビールとは異なります。そして分解すべき糖が完全になくなれば、今度は自らの身体を食べ始める自己消化という現象が起こります。酵母の身体はタンパク質等から構成されていますので、これが酵素の力によって分解されてアミノ酸等が生じます。アミノ酸…、そう、旨味の成分でもあります。自己消化が進み、分解できる自らの成分が無くなると、それが酵母の死ということになります。以降は酵母の働きによる香味の変化は期待できなくなり、瓶内の成分が時間経過と共に何らかの化学変化をしていくということになります。

ガージェリーでは、こうした一連の過程を瓶内熟成と呼んでいます。そして、この一連の変化がどれくらいの時間軸で起こるのか、それが賞味期限に直結するということになります。

酵母の自己消化

ここからは、瓶内の酵母数のカウントや官能検査(試飲)によって得られた知見をもとに、ガージェリーの香味の変化を検証していきます。(本来は詳細な化学分析を行うとよいのですが、そうした設備、技術が身近になく、商品としては官能検査と基本的な化学分析で十分にその品質を保証できると考えています。)

一般的な濾過ビールは、容器に詰めた直後から、容器内に混入する酸素によって酸化が始まり、時間の経過と共に酸化混濁という現象が起こります。生産直後の濾過ビールは透明で輝くような色合いをしていますが、数ヶ月単位の時間経過と共に、うっすらと曇ったような混濁が生じます。目視で分かるレベルの混濁になることもあれば、きちんと分析しないと分からないようなわずかな混濁に留まることもありますが、これが酸化混濁です。そして、この酸化による香味変化は分かりやすく、ビールの官能評価では「酸化臭」という言葉で表現されます。

これまで何回か、当ブログで、長期間、場合によっては賞味期限を超える保存を行ったガージェリー(瓶)の試飲結果をお伝えしました。その際、醸造責任者である私、佐々木が一貫して確認してきた事実として、ガージェリー(瓶)は数年の保存を経ても、沈殿している酵母に起因する以外の、いわゆる酸化による混濁を目視では感じさせないレベルで透明感を保っています。このことは、瓶詰時に封入される生きた酵母によって酸素を除去するという狙いが達成できている証しだと考えています。

また、酸化臭については、全く生じないということはありませんが、一般の濾過ビールに比べてかなり低いレベルに抑えられていると認識しています。

ガージェリー(瓶)は、瓶詰後2ヶ月程度は出荷せずに冷蔵倉庫に保存し、その後順次出荷されます。この2ヶ月間は、通常は工場の熟成タンク内で進む工程、すなわち、主発酵が終わったばかりで粗さ、バランスの悪さが残る若ビールの香味を整える期間に相当すると考えています。

私がお取扱店でガージェリーを飲む際には瓶詰日を気にするようにしていますが、概ね4-10ヶ月程度経過したものを飲むことが多く、1年を超えるものに出会う機会もたまにあります。このくらいの時間軸では、酸化臭が酷いものにあたることはほとんどなく、同時に、香味に顕著な変化が生じたものもほとんどないというのが実感です。

これを踏まえ、今回、瓶詰後5-6ヶ月程度経過した3種類の商品各1本ずつ、瓶内の酵母の生存状況(培地上でコロニー形成能力のある酵母の数=自己消化を始める前の酵母の数)を調べてみたところ、以下のような結果が得られました。

 Wheat        0個/330ml    →      0個/ml

 BLACK   756個/330ml    →   2.3個/ml

 Xale       486個/330ml    →   1.5個/ml

瓶詰直後は10~10個/mlレベルですが、5-6ヶ月の間に10個/mlのレベル(ほぼ0近く)になり、このあたりの時期から自己消化のステージに入っているのだろうと推測できます。そして、酵母の自己消化に伴う香味の変化が徐々に進んでいくことになります。

長い時間をかけて、確かめたこと

前述の通り、賞味期限である3年前後、またそれ以上の長期間保存したものを、事務所や工場において何回か試飲し、過去のブログ等で紹介していますので、ここでその一部を再掲します。

【4年保存のWheat】

グラスを鼻先に持ってくると、やはり多少の酸化臭を感じます。しかし、そのレベルは通常の大手メーカー濾過ビールの3か月程度のものでしょうか(かなり主観的ですが・・・)。ヴァイツェンタイプ独特の香りも健在ですから、酸化臭が鼻につくような感じではありません。口に含むと、意外とすっきり。1-2年経過で飲んだ時は新しいものに比べてボディ感を感じたのですが、今回は思いのほか軽く感じました。長期熟成に伴う余計な香味が生じていることもなく、美味しく飲むことができます。

【3年保存のBLACK】

BLACKは多少酸味が増し、やや軽く感じるようになりましたが、普通にBLACKとして飲める感じ…意外と変化が少なかったです。

【2.5年保存のXale】

すっきりときれいなフルーティーさが前面に出て、いつまでもそのきれいな香りを楽しんでいたいと思わせる…そんな感じです。

【5年保存のWheat】

以下は、ガージェリーを長年お取扱いいただいているバーの皆さんに、5年保存したWheatを試してみていただいた際のコメントです。

「正直言ってちょっと苦手でした。全体が丸くなり過ぎて、その中に特定の旨みを探すのが大変といった感じでしょうか。」

「ランビックのような独特の酸味を感じると共に、小さな瓶でもこれだけ味が変わることに驚きました。」

「思いのほか軽く感じました。」

【8-13年保存のWheat、BLACK、Xale】

最近、さらに長期保存したものを社内関係者一同で試飲しました。コメントをまとめると以下の通りです。

「いずれもひねたような香味に変化しており、美味しいとは言えない。ただしBLACKは飲み口がまろやかになっていると感じた部分があった。」

以上から、ガージェリー(瓶)の香味は、

「瓶詰後、ある程度の期間は一定の範囲に収まり、その後、徐々に香味が変化。この変化は嗜好品として楽しめる範囲を推移するが、保存がさらに長期に及ぶと香味がひねてきて、美味しくないと感じる人が増えてくる。」

という変化をたどっていると言えます。

そして、この変化が、酵母による酸素消費、自己消化、死滅後の香味劣化に対応しているのであろうと考えます。ちなみに、少なくとも賞味期限を上回るような年数を保存した瓶内では、コロニー形成能力がある酵母数は完全にゼロになっています。

このような一連の変化の時間軸は、瓶内の酵母量、酸素量、保存温度、ビール成分等、多くの要素に影響されます。特に酸素量は、同じタンクのビールを詰めても個々の瓶によるばらつきが大きく、それ故に、香味の変化も瓶差が生じます。また、温度が低い方が酵母の活動、自己消化のスピードが抑えられるため、保存温度は常温よりも冷蔵の方が香味の変化は遅くなると考えています。

ガージェリー(瓶)Wheat、BLACK、Xaleは「賞味期限3年」、そして「要冷蔵」の表示をしています。当然ながら、美味しくないと感じる人が増えてくる時期がぴったり3年というわけではありませんし、常温で保存したからといってすぐに劣化するわけではありません。「賞味期限3年」は、あくまでも熟成期間の一つの目安として、「要冷蔵」は、変化のスピードを抑えるための一つの手段として、それぞれ捉えていただければよいと思います。

ガージェリー(瓶)の賞味期限表示は、香味が一定に保たれる期限のことではありません。時間の経過と共に刻々と変化する香味を、飲み手一人一人の感覚で楽しんでいただける期間の目安です。自分の好みのガージェリーはどのあたりにあるのだろうか…、そんな楽しみ方ができるのも瓶詰ガージェリーの魅力の一つかもしれません。

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